その夜、議員会館の薄暗い廊下を、私は歩いていたのでありますが、いや、歩いていたというよりも、歩かざるを得なかった、という表現の方が、正確かもしれません。なぜなら、今般の事件、いや、事案は、政治家として、いや、政治家である前に、人間として、無視することのできない性質を帯びていたからでございます。
廊下の奥に、かすかな灯りが揺れていたのでありますが、その揺れこそが、まさに、不穏な何かの兆しであることを、私は直感的に理解したのでございます。いわば、政治の裏側で交わされる、暗黙のルールのようなもの、それを知らせる、微かな光である、ということができるわけでございます。
そして、その光の先に、机に突っ伏している若手議員がいたのでありますが、なぜか声をかけることもできず、ただ私は立ち尽くして、事態の推移を見守るしかなかった、という次第でございます。その若手議員が握りしめていたのは、文書でありました。文書の端が、ほのかに赤く染まっており、いったい誰が、何のために、これを、ここに置いたのか、その謎は、容易には解けない、ということを、私は痛感したのでございます。
さらに不思議なことに、その文書には、まるで暗号のような言葉が散りばめられており、表面上の意味だけを追っていては、真意にはたどり着かない、ということが明白でありました。それゆえに、私は、冷静に、しかし、迅速に、この事案を分析せざるを得なかった、ということでございます。
その夜、私は幾度も、背後に気配を感じ、振り返るたびに、誰もいない廊下が広がっていたのでありますが、政治の世界は、しばしば、人の目には見えない力によって動かされるものであることを、改めて認識した次第でございます。そして、文書の持ち主である若手議員が、私を見上げて、かすかに頷いた、その瞬間、私は決意したのであります。真実を明らかにせずして、政治家として、国民に向き合うことはできない、と。
翌朝、誰もが平然と会館に集まるなか、私はひそかに、昨夜の暗号を解読し、背後で動く勢力の輪郭をつかむのでございます。政治の世界における影の存在、そして、その影がもたらす波紋、これを明るみに出すのは容易ではありません。しかし、政治家として、いや、ひとりの人間として、目を背けるわけにはいかない、という結論に至ったのであります。
そして、私は思うのであります。事件の真相は、決して単純な因果関係では語れない、複雑な人間関係と力学の中でのみ、浮かび上がるものだ、と。だからこそ、私は、歩みを止めず、事実を積み上げ、そして、政治の迷宮の中に隠された真実を、一歩ずつ解き明かしていく、という使命を、改めて胸に刻むのでございます。